1.要約
杉浦晃は宇宙と“交信”していた。ペガサス座51番星、第4惑星ペレロフォンの王子ミカエルである彼は、苦しみに満ちたこの星を脱して母性へ帰還する迎えを待っていた。
川村美知は、新人のケースワーカーとして杉浦晃と知り合った。
ケースワーカーは、体の不自由な人々の介護から生活保護を受けている方のケアなどを行うことが仕事だ。社会に出て間もなく統合失調症を患い、引きこもっている晃は、母親のケアで何とか生活をつないでいるようだった。
訪問のたびに居留守を繰り返されていた美知は、晃の母親から部屋の鍵を託される。自分の母と同じ、女手一つで子供を育ててきた晃の母に喜んでもらいたかった。
声をかけながら、スペアキーで半ば一方的に部屋に入った美知が見たのは、痩せて緩慢な動きの、疑り深い目をした自分とさして年齢の変わらない男だった。こちらの問いかけに反応することはなかった。
何度か訪問を繰り返し、窓を開けて部屋の空気を入れ替えたり、掃除をしたりするうち、晃は口を開くようになる。ある日の訪問で、「ペガサス」とつぶやいた後、「俺、地球の人間じゃない」と口にした晃の言葉に絶句しながら、美知は彼の囚われているものが荒唐無稽な妄想だと切り捨てることができずに、反応するように問いかけた。
「いいところなの?」
晃は何も答えない。
「ペガサスか。私も連れてってもらおうかな。この星にいてもあまりいいことなさそうだし…」
いつも元気に見えた美知の顔には陰りが浮かんでいた。
美知は、今後の晃とのかかわり方について意見を聞くため、かつて晃の主治医だった佐伯の元を訪れた。長身でスポーツマン風の容貌を持つ佐伯は、二度目の入院に至るまでの経緯を過去のファイルを繰りながら説明した。
「治療とは今の状態、つまり彼なりに持っている生きる希望を、現実的ではないとして取り去ることだ。それは彼にとっても自分を失うほどに恐ろしいことであるんだ。それを彼が自ら望まない限りは…」
晃の元を訪れた青天のある日、帰りがけに傘を手渡される。
「持って行けよ」
戸惑いながら、晃の言葉に従った美知は、転寝していた帰路の列車の窓にあたる雨粒の音に、「ウソ…」とつぶやいた。偶然とはいえ、愉快な気持ちになった。
美知は晃を外に連れ出すようになった。まだ時折独り言をつぶやく晃の手を取り、寺の境内を散歩し、町を歩き、伸び放題だった髪を切り、熱が出た晃の看病をした。晃がバイクに乗っていたことも、ギターを弾くことも知った。
ある日、美知は晃の好きな場所に連れて行ってほしいと伝えた。唐突な申し出に晃はバイクが修復してあることを伝える。二度目の入院の少し前、真夜中に空に向かって叫んでいた、とある池のほとりへ向かう。
「どうしてここが一番気に入っているの?」
「マザーシップが迎えに来る」
「そう…」
美知は昔住んでいた家の近所の公園のことを皮切りに、幼い頃に亡くした父のことに触れた。訥々と語り終えた美知は晃に伝える。
「私、杉浦さんには何でも話せるみたい。とても話しやすくて甘えてしまうのかな」
晃は何も言わずに美知の話を黙って聞いていた。
一緒に出かけるようになった二人はその日、競馬場にいた。
馬を見定めるためのパドックで晃はつながれた手に束の間、父の面影を感じる。
その後、立て続けにレースを当て、100円の軍資金は10万円になった。
「声が教えてくれる…」
美知の問いかけに晃はそう説明した。
少しずつ、健康になろうとしている晃と会い、彼の好きな池のほとりに出かけ、バイクで家まで送ってもらった日、帰宅してすぐ母親が倒れたと連絡が入った。電話の相手は、それまで温もっていた心を一瞬で凍り付かせた。母の愛人にして、かつて美知にも何度か手を出した吉岡だった。
帰郷した美知は、その卑屈で忌まわしい男とともに付き添うことになったが、甲斐もなく母親は静かに息を引き取った。打ちひしがれる美知が悲しみに暮れる間もなく、入院費を含めた請求が行われ、その額に愕然とする。
葬儀の日、母を見送る会場に、突然晃が現れた。バイクで遠い道のりを走ってきたようだ。彼は香典を預け、挨拶を済ませると帰っていった。香典袋には100万円が入っていた。美知は、感謝の想いとともに、自分の治療に使ってほしいと伝え、そのまま晃に返した。
美知は聴かせたいものがあるとの誘いに、躊躇しながらも佐伯に部屋に寄った。カセットテープ(!)に録音されていたのは、晃の歌だった。レッドツェッペリンの『天国への階段』だった。自身が奏でるギターとともに発せられる声を聴いたとき、美知の体は震え、涙が頬を濡らした。
「この曲は、天国への階段を手に入れようとする女の子を歌っているんだ。彼女には耳鳴りが聞こえる。それが彼女を導く声であるということに気づかない。ディア・レディ、風の音が聞こえませんか。知っていますか、天国への階段がささめく風に架かっていることを」
精神科医としての危惧をほのめかしながら、佐伯は歌をそう説明した。
「この曲で問題にされているのは、歌う『私』ではなく、彼女なんだ。『私』は“そのこと”を知っていて、気づいていないのは彼女の方なんだ」
「その女性は最後にどうなるんですか」
「さあ、そのことについては何も。ただ耳をすませば、その調べは届くだろうとしか…」
母親の治療費を返すため、美知は仕事の後、スナックで働き始めた。
睡眠時間が削られ、疲労がたまる。毎日作っていた弁当も今は市販のパンになっていた。
ある日、店に晃が現れた。美知を強引に連れ帰ろうとして、店のマスターや客たちと騒ぎになる。殴られ、揉み合いになった晃をかばうように、美知は晃とともに変える旨をマスターに告げた。
部屋で傷の手当てをしたあと、美知は晃に愛を告げた。晃もまた美知を好きだと打ち明けた。
互いに求め合おうとしながら、薬の影響で体が十分でないことを伝えた晃は、自分のような病人にかかわらない方がいいと言い、部屋を去っていった。
自分のために人が苦しむことに混乱した美知は、佐伯に相談する。自分はもう、ケースワーカーとして晃と接することはできない、と。そして部屋であったことを伝えた。
「君が彼の中に見ているのは、本当の彼じゃない。君自身なんだ」
怒りとともに、走りだす美知を背後から佐伯が落ち着かせるように抱きしめる。
「私は弱すぎるんです……とてもエゴイスティックで、貪欲で、衝動的な悪魔が自分の中に住んでいるじゃないかって思うこともあります」
美知は小学生の頃に母の愛人から受けたことを話した。吉岡から受けた苦痛、そうであるにもかかわらずどこかで次を期待している自分への嫌悪、男のことで母をライバル視していた自分。
美知の話を聞いた後、そのような経験をした女性には普通に見られることを説明する。そして、自らの体験を述べた。自分はかつて自分を助けてくれた人を自分のエゴで助けられなかった、もう人を愛することはないと思っていた、と。
そして美知に愛を伝えた。
結婚の準備を進める美知に、晃が作業所に通わなくなったことが伝えられた。
美知は晃のアパートに出向いた。晃はすでに薬を飲まなくなっていたようだった。
帰れと美知の目の前で部屋の扉が閉じられた。
しばらくして晃が部屋を引き払ったというメモが見つかる。ほどなくして警察に保護された晃を佐伯と晃の母親とともに美知は迎えに行くことになった。
結婚式の前日。
佐伯の部屋のベランダで「風の音を聞いていたの」という美知に、佐伯一瞬は険しい表情を浮かべた後、いつもの優しい笑顔に戻った。
「風の音?」
「そうよ。耳を澄ましていると、風が話しかけてくるの……これって幻聴なの?」
美知の顔には不安よりも喜びの表情があった。佐伯の顔から笑みが消える。
「風はなんて言ってるんだい?」
「それが変なの。もう少しだって。もう少しで終わるって…」
式の準備のためにいったん自分の部屋に戻るという美知に、佐伯は薬を処方し、この部屋でゆっくり眠るように伝えた。
そして、明け方の4時。
いつもよりぐっすりと眠れたものの早くに目が覚めた美知は、いびきをかいてソファに横たわる佐伯に置き手紙を残して一度部屋に戻った。
隔離病棟から一般病棟に移った晃は、友人の黒田に依頼して、病院を脱出した。
美知は部屋のあるアパートにたどり着いたとき、ドアの前の暗がりに晃を見つける。「逃げてきたんだ」美知は寒さで血の気の失せた顔の晃を部屋に入れた。
佐伯から電話が入り、晃が脱出したこと、そちらに向かうかもしれないから注意してと連絡が入る。
「来たら、連絡を入れるから」
そう答えた美知は、全てから逃れるように、晃と山間のロッジに向かった。
二人で寄り添うように眠り、食事をし、ともに生活を送った。
所持金がつきた日、美知は佐伯に連絡を入れた。
「杉浦君を助けてください」
美知は晃に、もう一度治療を受けてほしいと伝える。
「俺を病院に戻して、川村さんは死ぬつもりなんだろう」
「そんなことない。一度ここを離れるけど、もっと強くなって杉浦君のところに行くから」
「川村さんは嘘が下手だから」
晃は美知の手を取った。
「今夜、マザーシップが来る」
「私も連れてって」
その夜、池のほとりに腰を下ろすと、美知は闇の中で晃を抱きしめていた。光が下りてくる。意識が徐々に遠のいていった。
6年の歳月が流れた。
美知は虐待を受けた女性の保護をする教会で働いていた。
皆、心も体もぼろぼろになっていた。フラッシュバックに悩み、自傷を繰り返し、夜も眠れない彼女たちに寄り添う、一刻の猶予もない日々を送った。
そんな彼女たちに寄り添いながら、自分の方が彼女たちによって救われていることに美知は気づいていた。
あの日、保有していた睡眠薬を分けて全て飲みほし、池のほとりに倒れていた二人を最初に見つけたのは佐伯だった。
その佐伯から、晃が作業所の女性と結婚することになったという手紙が届いた。
欠席しようとする美知をシスターがそれとなく出席させるように取り計らう。
式は最後に美知が晃と時を過ごしたロッジから程近い場所にある村の広場だった。
遠目から新郎を伺う美知を、ケースワーカー時代の同僚で世話になっていた前田が見つけ、声をかけてきた。
あの日、保有していた睡眠薬を分けて全て飲みほし、池のほとりに倒れていた二人を発見したのは佐伯だったが、快方の中で意識を取り戻した美知が尋ねた晃の安否に、恢復の方向へ向かっているがもう彼に会うことはできない、と伝えたのは前田だった。あなたも彼も死んでいたかもしれない。死んだということはもう会えないということなのだ、と。
その前田が、今はこう言ってくれる。
「あなたは一人の人間として彼を愛したのよ」
帰り際、かつて聴きたいとせがんだ曲をギターの音とともに晃が歌う声が聞こえてきた。涙で頬を濡らしながら、来てよかったと美知は思った。
(今もあなたのことが好きです。あなたのことをとても誇りに思います)
美知は静かにそう思った。
帰り際、途中にあった池のほとりに向かった。
二人で訪れた頃と、何も変わっていない。
不意にバイクの音が聞こえてきた。晃だった。名を呼ぼうとしたとき、姿は消え、風が木々を揺らす音だけが聞こえてきた。
2.著者について
小笠原慧氏は、精神科医である岡田誉司氏の作家名。詳細は下記『ネオサピエンス』を参照ください。
https://nakatanihidetaka.com/neo-sapiens/
余談ですが、岡田クリニックは京阪電鉄樟葉駅からくずはモールを通って徒歩2分のところにあります。小ぢんまりとした普通のビルの2階にありました。下記がホームページです。
https://www.clinic.kokoro-support.net/
3.気づき
“心中”という行為に漠然とした違和感を持っていたのが、父の自死のせいなのか、自分の無意識に巣食った羨ましさのせいなのか、はわからない。いずれにしても、この言葉を聞くたび、生きたくても生きられない人がいるのに、という紋切り型の理屈を伴った批判が私の脳裏をよぎるのは事実だ。
その感覚がこの物語で揺らいでしまった。
離散した原家族は、自死者もいれば統合失調症で苦しんだ者もいて、混乱の中で追い詰められていた自分もまた、ほんのわずかなきっかけがあれば、取ったかもしれない行動であることを突き付けられたからかもしれない。
その“心中”だが、ラストで、“心中”が未遂となった美知に同僚が「甘えないで」と伝える場面があるが、著者は、その言葉で片付けてしまえない事情をほのめかし、読者もまた沈黙の応援者として読み続けていると思う。そして、おかしな方向へ高望みしなければ、世の中には救いがあることをうたってくれている。
それにしても、まだ少年少女と呼んでもいい二十代前半の男女には酷な境遇だと思う。こう感じるには、自分に対する同情めいたものもあるのかもしれない。年齢に限らないかもしれないが、未成年のうちから世の中に対する信頼を見失い、その回復に必要な親の立場の安全な人々を見出しづらい状態は、心の中にもろさを共生させることになる。
世の中を信頼するに足るもの、愚痴を言い、悪口を言い、適当にサボり、それでも自分の足元が、世界観が崩れることはない“普通”の人々とは一線を画す感覚を、漠然とした不実、恐怖、無力、無価値といったような言葉で表現し、主人公たちの感覚に当てはめようとするなら、それはどこかで私たち誰しもに通ずるものだ。
この心を揺さぶる“物語”は、大きく2つのことを説得力をもって示唆していると思う。
1つは、統合失調症を含む精神疾患者を、この世の中を生きる我々の日常に放り込み、位置づけなおしていることだ。物語の威力だと思う。
私たちは誰もが精神疾患者足りえる。そこに垣根はない。
誰もが形を変え、同じような状態を自分の中に持っているのだ。“普通”から逸脱して見られる人々、心の病やトラウマを抱えていたり、そこまでいかなくとも、日々生きづらさを抱え、汲々として孤独に陥っている一人一人の“私たち”に違いはない。それを道徳的な意味合いではなく、まさに生物的、存在論的にも差異は全くないのだ、ということを訴えている。
道徳的に言えば、そんなことは当たり前だと言う方もおられるだろうが、その現実はずいぶん異なっている。米国などでは精神疾患はよほど症状がひどくならない限りは、当人が薬物療法などで調整しつつ社会活動を行うことが常識になっている。翻って、“健常者”とくくられる人々と、精神疾患者の間には、見えないだけで確固たる線引きが行われているのが日本の社会だ。
だが、自戒を込めて言うが、よくよく自らを振り返ってみてほしい。妄想の中で、酔いしれ、憎み、笑っている自分、耳鳴りに苦しむ自分、勘ぐっては衝突をする自分…。そんな幾つもの自分が統合失調的と言われてどこまで反論することができるだろうか。
もう1つの示唆は、社会の中に自分を肯定して位置付ける“物語”を内在化することこそが、弱り果てた自分自身を生きなおすための究極の処方箋になり得るということだ。フィンランドで生まれたオープンダイアローグ法などは、これに該当するのではないか。
現実とは幻想のことだという故カールロジャース氏の言葉や、戦後の日本人に最も必要なものは文学と哲学だと喝破した故小室直樹先生の言葉を待つまでもなく、疲れ果て、生きる気力をさえ無くしかねない現代の人々が生きなおすために、最も大切なことを、心に病を抱え、社会的偏見にさらされた人々の愛しい生き様を描くことで伝えているように思う。
この本は、小笠原慧という小説家の観点から取り上げた物語ではあるが、患者=クライアントの回復と社会復帰に対して医者ができることは、他の分野の治療以上に限られていて、そこには大変畏れ多いことながら、私が社会の末端で発信を続けていること通じるところがあると思う。
精神疾患は確かに病理であり、治療対象だ。話を聞き、その症状や程度に応じて投薬し、様子を見る。しかし、風邪をひいたときの投薬と比較すると、自然治癒がそれほど望めないという点で大きく異なる。それでいて、鬱に限らず多くの精神病理は、実は誰にとっても起こりえることだし、ことに資本主義社会が浸透し、あがいてもどうしようもない状況になったとき、適切なサポートが取られない社会では、共同体の作用が望めないことと相まって、そこに属する多くの人に起こりえるものなのである。
さて、少々話の流れを変えるが、おじさん的下世話な興味と言われることを覚悟で、美知はなぜ晃に惹かれたのか考えてみた。
パラパラとページをめくりなおしてつつ、恋愛になぜも何もないのは承知の上でこんな話をするのは何だが、ちょっとだけ書かせてください。
美知が晃に惹かれた理由。
彼女の持つ過去の影響はもちろんあるし、物語の中にも出てくる。
それでもそこに、同情を超えた何か、美知にとっての晃の魅力を感じたからこそ、彼女が惹かれた面ももちろんあると思う。
晃は直感力に優れていた。彼の患う病理の故に神経をすり減らしながら、ほんの少し先の未来を感じ取ることができた。その能力で、彼は夕立を予感し、美知が自動車に惹かれそうになるのを防ぎ、彼の父親との思い出のある競馬場では何レースも立て続けに1点買いで勝利を収めた。金銭的理由からスナックでアルバイトをしていた美知を連れ戻しに来て、店の男たちに殴られ、それでも結果として美知を連れ戻すことに成功した。
この病を理解し、この病であるが故に何度も美知を救ってくれた晃。統合失調症は薬でしか寛解のあてがない。そして寛解は同時にこの能力とも呼べる力を失うことも意味する。
一人の女性として、一人の男性に魅力を感じる理由にはなるようにも思える。
ありそうでなかなかないようにも思うけど、小笠原慧氏が紡ぐ物語の人物には、決定的な悪者が登場しない。
ここでいえば、かつて幼い、小学生だった美知を性の対象にした吉岡さえ、嫌悪の表現をとりつつも一抹の人間的な様相の描写をもって、ストーリーの中に違和感なく位置付けている。フィクション・ノンフィクション問わず、筆をとる精神科医はいるが、この柔らかさと言うか冷静さは、他ではなかなか見られない。
物語の最後の二つの章の題はそれぞれ『永遠の二人』と『蘇る時間』だ。
二人で寄り添ったまま終わりにしようとした世界と、そこから前を向いて歩きだした新しい二人の世界がそれぞれ描かれている。
出版元の単行本を掲載したページ↓には『ハッピーエンドだけど悲しいのはなぜ?』という文が掲載されている。
https://www.kadokawa.co.jp/product/200605000202/
商売上の意図があるのだろうけど、個人的には『哀しみの中に新しい愛の形と希望が見えた』と言う類のキャッチフレーズの方がいいのに、と思う。
1987年、村上春樹氏の著作『ノルウェイの森』で、直子さんが囚われた心の闇は彼女を別の世界へ連れて行ってしまった。
2007年、レッドツェッペリンの名曲の歌詞を取り上げて名付けたこの物語で、心に闇を抱えた少女は生きることを選択してくれた。その話を専門家である精神科医が描いてくれたことは大きいし、とても嬉しい。
世にミステリー、サスペンスという物語のジャンルはあるけれど、そういう作品とは一線を画した、半ばノンフィクションライクなフィクションは、現場を見てきた精神科医が、物語の持つ効用を利用して、私たちの中にある本音に問いかけてきている。
余談ですが、登場人物の一人である佐伯医師が今一つ気に入らないのは、自分の中に見ようとしないものを見せているからなのかな。美知様は、確かに心をぐらりとさせられる…。
もう一つ余談ですが、杉浦晃君の統合失調症者としての察知能力とガンダムのニュータイプがダブるのは私だけ?
実際、1stでララァによって示されたサイコミュは、Zガンダムではニューガンダム自体に組み込まれている。さらにその後ZZでは…。
さて、夜空にマザーシップでも探すか。。。
4.おすすめ
心に病を抱えているという範疇にくくられている人々の物語ではありますが、本質的にどこかで疎外感を抱えるすべての人々を抱擁する物語でもあると思います。書評と言うの駄文をこれほど長々と書いた後でさえ、まだ語り尽くせていないと感じるくらい、あちこちに感じ入る場面が展開されています。ただ、読んでいただきたい、そして感じてほしい作品です。
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