その昔、ほんの少しだけですが、
ルネマグリットの絵画に
凝ったことがあります。
一連の不可思議な絵、
シュールレアリスムと言うのですが、
空中に浮かぶ岩や、
青空で描かれた鳥の絵など、
彼の描いた抽象的な表現が、
妙に感覚のツボにはまって、
当時はあちこちで開催されていた展示会に
足しげく通っていました。
得に惹かれたのが、『光の帝国』。
(The Empire of Light)
あまりに長く絵の前で動かなかったからか、
一緒に出掛けた人からはよく、
「そこまで見ていたい?」
とあきれられていました。
★
先日、久々に東京湾の方へ
夜釣りに生きました。
夜釣りは1人で行くと怖いので
(ビビりなんです…)
この歳になっても
年長者のお尻にくっついて
出かけるようにしているのですが、
どうしても都合がつかなくて
1人で出かける時は
できるだけ灯りのあるところにします。
だったら昼間に行けと言われそうですが、
やっぱり夜の方が釣れるんですよ、お魚は。
奴ら、都会暮らしで擦れ切ってるんで。。。
で、今回は幸浦から福浦まで続く波止から
のんびり投げざおをセットして
後はあたりを待つばかり。
平日の割に周囲は混んでいて、
カップルから家族連れから、
猫ちゃんたちまでいました。
彼らの視線を尻目に、
穂先にあたりがでるまでは
だいたいいつも、
東京湾を往来する船や、
対岸から左奥までの光の夜景を
見て過ごします。
夜釣りと言ってもせいぜい、
日が落ちてから2~3時間くらいで、
単独釣行だと寂しく感じるので、
よほど釣れている時以外、
そそくさと帰ってしまうのですが、
夜景に見とれて
気がつくと時間が過ぎてしまうときが
たまにあります。
そんな時はだいたい、
工場街のイルミネーションって
実際はどうなっているんだろうと
素朴な疑問が浮かびつつ、
そのまま帰路についていました。
昨年には、ハンマーヘッドから出ている
夜景ツアーに参加して、
横浜から川崎に至る臨海工業地域の夜景を
海の上から実際に眺めてきたのですが、
思ったほどライトシャワーの光景が
見られたわけでもなければ、
色とりどりの繊細な光たちが鮮やかに
共演しているわけでもなく、
愛でるために作られたものではない
機能美の現実を垣間見た印象の方が
強かった気がします。
★
マグリットの『光の帝国』は、
薄暗い森の手前に描かれた湖と、
その手前にたつ館があって、
全体的に陰に飲み込まれています。
背後の白い雲が浮かぶ明るい青空と
暗い森の中の館が対照的です。
館の前には一本の街路灯?がたっていて、
街路灯の灯りに照らされた部分は
明るくなっています。
この風景が現実的に成立するのかは
実は微妙なところかと思いますが、
それはともかくとして、
マグリットはこれを、
昼と夜の共存と呼んでいたそうですが、
そんなことはつゆほども知らない私は、
この絵が示す暗闇(原家族の状態)を、
青空(うまくいっている外の世界)と
対比して、
当時問題を抱えて皆が混乱していた
原家族の未来に対して
ささやかな可能性を望んでいたのかな、
と感じています。
一人で夜釣りに出かけて、
湾岸のイルミネーションに見入る時、
子供の頃、
父に連れられて出かけた夜釣りを
思いだしながら、
同じような感慨を
持っていたのかもしれません。
★
『光の帝国』はポスターを購入して
しばらく部屋に貼っていたのですが、
長い歳月の中でボロボロになって、
廃棄してから随分たちました。
自分の中に眠る“素の自分”が
息づいている原風景を
甦らせる大切さを毎回のように述べています。
私にとっての光の夜景や『光の帝国』は
もしかするとそんな位置づけの一つ、
だったのかなと思ったりします。
ちなみに、『光の帝国』には
別バージョンがあります(『光の帝国2』)。
ー今回の表紙画像ー
『マグリット「光の帝国」』
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